動物に現れる様々な形質が子や孫にどのようなメカニズムで遺伝してどのようなメカニズムで発現するのかについては未解明な部分が多く残されています。

 当分野では、糖尿病の動物モデル、和牛など日本固有の資源動物、トキやコウノトリなどの希少動物を対象として、分子遺伝学と統計遺伝学を基盤として最新のオミクスやシステム生物学的アプローチを駆使することにより、質的・量的形質の遺伝・発現メカニズムの解明に挑戦しています。得られた知見を応用して、和牛など日本固有の貴重な資源動物の遺伝的評価・育種改良・保全法の確立に貢献することが目標です。

        

質的・量的形質の遺伝・発現メカニズムの解明

        
1. 糖尿病をモデルとする形質の遺伝・発現メカニズムの解明

 糖尿病は、複数の遺伝因子と環境因子との相互作用により発症する多因子遺伝性疾患であり、多因子遺伝の代表的なモデルとして知られています。私たちは糖尿病を自然に発症するマウスやラットを対象として、従来からの交配実験と表現型解析に加えて次世代シーケンス解析やメタボローム解析など最新のオミクスアプローチを駆使することにより、糖尿病の発症に関与する遺伝子の同定と発症メカニズムの解明を進めています。

2020追加

        

 最近、私たちは肥満モデルZucker fatty(ZF)ラットを起源として新たに肥満のみならず糖尿病を発症するモデルZucker fatty diabetes mellitus (ZFDM) ラットを確立しました(Yokoi et al., J Diabetes Res, 2013)。ZFラットとZFDMラットは同一のレプチン受容体遺伝子変異(fatty, fa)を有するにもかかわらずZFDMラットのみが糖尿病を発症します。これまでの検討から、ZFDMラットとその起源であるZFラットは複数のゲノム領域が異なること(Nakanishi et al., Exp Anim, 2017)、膵島構築の破壊とインスリン分泌障害が病態の基盤であることが判明しています(Gheni et al., J Diabetes Res, 2015)。さらに、膵島を対象とするmRNAシーケンス解析とメタボローム解析により、糖尿病発症前の12週齢のZFDMラットにおいて膵β細胞の分化マーカーの発現低下、細胞増殖マーカーの発現亢進、解糖系の亢進やTCA回路の抑制などの異常を見出しています(Hayami et al., J Diabetes Investig, 2020)。

 現在、糖尿病発症に関与する遺伝因子ならびに病態発症・進展機構を解明するため、交配実験、SNPタイピングおよびエクソーム解析により疾患候補遺伝子を同定するとともに、ゲノム編集による候補遺伝子の検証および膵島のプロテオーム解析による異常修飾タンパク質の同定を進めています。本研究は、ヒト糖尿病の遺伝素因と病態発症・進展機構の解明や新規のメカニズムに基づく治療薬の開発の基盤となるとともに疾患モデルの有用性を実証するものです。

 
                
2. ヒトとウシにおける骨格筋内の脂肪蓄積形成機構の解明

 ヒトの加齢に伴う骨格筋量と骨格筋力の低下はサルコペニアと呼ばれ、深刻な健康問題となっています。サルコペニアや肥満・糖尿病では骨格筋内に脂肪蓄積が見られますが、その形成メカニズムは明らかでありません。一方、日本が誇る黒毛和種牛は、霜降りと呼ばれる筋肉内への脂肪蓄積(脂肪交雑)の能力が高いという特徴を有しています。骨格筋内の間葉系前駆細胞が脂肪細胞の起源であることが報告されており、この細胞はヒトの筋内脂肪とウシの霜降りの共通の起源と考えられます。私たちは医学と農学の融合研究として、ヒトとウシにおける骨格筋内脂肪蓄積形成機構の比較研究を行うことにより、普遍的なメカニズムならびに種や病態に特異的なメカニズムの解明を進めています。

 同時に、生体における骨格筋内脂肪の量や質の指標となる血液中のバイオマーカーの探索も進めています。特に、近年注目されているマイクロRNAに着目しており、血液に含まれるマイクロRNAによる骨格筋内脂肪の質と量の診断技術を確立することが目標です。

2020追加

        

資源動物の遺伝的評価・育種改良・保全法の確立

        
3. 資源動物の遺伝的多様性や有用形質の評価、育種改良、保全法の確立

 黒毛和種牛に代表される和牛は日本固有の貴重な遺伝資源です。その遺伝的多様性を保持しつつ、有用形質を評価し、育種改良して利用していくことが求められています。私たちは和牛の遺伝的多様性の評価、有用形質の評価、育種改良、保全法の確立を目標とする研究を行っています。

2020追加

        
4. 特別天然記念物トキやコウノトリなど希少動物の遺伝的多様性の評価、個体分類、保全法の確立

 特別天然記念物トキおよびコウノトリの増殖と試験放鳥が国家的プロジェクトとして進められています。特に保存集団の遺伝的多様性の維持は,プロジェクトを推進する上で非常に重要な課題です。この課題に対し,以下のテーマで取り組んでいます。

羽ばたけトキよ!

2018追加

DNAマーカーの大規模開発とタイピング法の確立

 集団の遺伝的多様性を把握し維持するためには,ゲノム全域からDNAマーカーを大規模に開発する必要がある。次世代シークエンサーを利用した方法によるマーカー候補の検出を実施し,数百程度のマーカーを簡便にタイピングする手法の開発を進めている。さらに,タイピング情報に基づく個体識別法や遺伝的多様性評価法の樹立へと発展させていく。

トキ

2018追加

MHC領域のゲノム構造と多型の解析

 免疫系に関与し,ゲノム内で最も多型が多いとされるMHC領域は,免疫機能と遺伝的多様性の両面の指標として希少動物の保全において注目されている。分子生物学的手法を用いて,MHC領域のゲノム構造とその多型の解析を進めている。この研究成果は,鳥類のMHC領域の進化に関する研究においても有用な情報となるものである。

2018追加